福田会長の新年挨拶

   年頭に当たって

 2021年が始まりました。明けましておめでとうございます。とは言っても、コロナが吹き荒れるさなかとあって、どこかわだかまる気持ちがとけない新年でもあります。会員の皆さんは、どんな思いで新しい年を迎えられたでしょうか。
 暗い一年間でしたが、旧冬にはうれしいニュースがありました。小惑星探査機「はやぶさ2」が、日本の最新技術を詰め込んだ小さな機体に、大きな土産を乗せて宇宙の彼方から帰ってきたのです。もう一つは諸外国で、コロナウイルスのワクチンが開発され、接種が始まったことです。残念ながら、日本製のワクチンは未だ完成を見ないようですが、コロナ禍でも科学技術の進歩は止まることなく、私たちに夢と希望を与えてくれています。
 翻って、このような時、文学に何ができるのか、文学が果たすべき役割は何なのかを考えたいと思います。災厄が、思わぬ豊穣をもたらすことがあります。先の戦争が終わった後、無頼派と言われる一群の作家が現れて、焦土に見事な花を咲かせました。作品が戦争ですさんだ人々の心を癒したのです。
 昨年の「今年の漢字」は「密」だそうです。コロナ対策で密集、密接などの三密を避けることが肝要だと言われました。「密」には「密かに」という意味もあります。「密かに」悪事を働く政治家もいるようですが、私たちはただ蟄居しているだけでなく、「密かに」力を蓄えて来たるべき日に備えたい、と思うのです。

   栃木県文芸家協会
   会長 福 田 三 男