福田会長の新年挨拶
歳の初めに
宇都宮駅にほど近いビルの八階から師走の街を見下ろしている。地上の道には車があふれ、喧騒に包まれているのだろうが、それもここまでは届かない。静かな歳末だ。
昨年、何が起きたのかを振り返ってみる。二月、ロシアがウクライナに侵攻。以来ウクライナ各地で激戦が続く。北朝鮮は打ち上げ花火のようにミサイルを発射し続けている。台湾海峡の暗雲も晴れる気配はない。それどころか「核」という文字が当たり前のように新聞紙上を飛び交っている。
年末に発表された二〇二二年の漢字は「戦」だった。ウクライナを念頭に、スポーツの世界大会での日本勢の活躍などが加味されたのだろう。「戦」はそよぐとも読む。「風に戦ぐ葦」は聖書の言葉だが、自分の意見を待たず、権力者の言いなりになる人物を指す。石川達三に同名の長編小説がある。戦時下の日本で起きた最大、最悪の言論弾圧事件、横浜事件をモデルに書かれた。
アメリカに「戦争の最初の犠牲者は新聞である」という名言がある。「新聞」を「言論の自由」、「表現の自由」と置き換えることができる。ロシアでは開戦以来言論弾圧が激しさを増しているらしい。
友人の一人がウクライナの義勇兵になる、と息巻いていたが、その後どうしたことだろう。本気とは思わないが「七五歳、足手まといになるだけだ」と笑っておいた。だが、我が身を振り返ってみれば、そこにはただ、おろおろするばかりの老人がひとりいるばかりである。
しっかりとした自分の意思、意見を持ち、それを表現して他に伝えてゆくことこそ大切なのだと思う。
栃木県文芸家協会
会長 福田 三男