発刊にあたって

 栃木県文芸家協会は昭和四十七年(一九七二)に設立されました。その四十周年記念事業の一つとして企画されたのが本書の刊行です。この種の書物としては、昭和六十一年栃木県文化協会発行の『栃木の文学史』一巻があります。万葉集の東歌より始まり、昭和後期にいたるまでの本県文学各ジャンルの歴史を取り上げた長大なもので、体系的にまとめられた貴重な一冊となっています。内容的には近代以降の記述が大部分ですが、中世や近世の本県ゆかりの文学作品を収録し、国語教材としても参考になるよう編集されていることも特色といえるでしょう。
 さて、平成もはや四半世紀になります。昭和も遠くなりにけり、の感がしなくもありませんが、その間の県文芸界も新旧交代、新しい展開を見せつつあります。本書では主として平成期の小説・評論・随筆・現代詩・短歌・俳句・川柳の各ジャンルの活動状況を作家と作品を中心に包括的に記述されています。といっても、現状を詳細に調査し集大成することは極めて困難で、内容については今後に期すべきことも多々あることはいうまでもありません。平成期に入ってから各分野においても種々の刊行物はありますが、県文芸界全体を俯瞰する一冊は今回が初めてです。
 本会は昭和四十八年(一九七三)より毎年文芸誌『時代』(平成二十五年、『朝明』と改題)を発行してきましたが、単行本形式の刊行物は昭和五十六年発行の『栃木県文士往来』(B6判並製一七三頁)一冊のみで、内容は数名の会員が本県に関わりのある著名文士との交流の一こまをエッセイ風に書かれたものでした。したがって今回、久しぶりに単行本として本書が刊行された意義は大きく、本会の存在感を高める契機となりましょう。本県文芸界平成四半世紀の経過を展望し、資料的記録としての意味も併せもつ本書が信頼すべき書物として将来広く活用されることを願っています。
 最後に本書発刊にあたって、本会の礎を築かれ発展につくされた多くの先達に敬意を表し、この文を終えることにします。

 平成二十六年五月
 栃木県文芸家協会会長
 高田太郎